長野 ヒデ子さん講演会「びっくりしゃっくり 絵本と紙芝居」(大田区立図書館読み聞かせボランティア講演会)

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更新日:2019年3月28日

平成30年9月29日(土曜日)、池上会館第一会議室で、講師に絵本作家・紙芝居作家の長野ヒデ子さんをお招きして、読み聞かせボランティア講演会「びっくりしゃっくり 絵本と紙芝居」を開催しました。台風のせまる中にもかかわらず、親子連れを含む81名の方がご参加くださいました。その様子をお届けします。

絵本作家になるまで

物語をつむぎだす力を育んだ子ども時代

私は愛媛県今治市の生まれですが、図書館も本屋さんもない村でした。
私の小学校の先生は絵の先生だったのですが、外にスケッチに行く時などはちょっと変わっていました。他のクラスはきれいな風景を描くようなところに行っていたのに、うちのクラスは、農家の牛小屋とか、堆肥が積んであるような、子どもにとってはきれいでないなと思うような風景を描かせました。当時は、どうしてそんなものを描かされるのかわからなかったのですが、いま絵本を描く人になって思うのは、きっとあのときの先生の授業が、私に物語をつむぎだすくせをつけたのだと思います。穴のあいた草履も、はじめはピカピカだったはずで、ちょっと休みたいなと思ったりしたのかな、というようなものがたりです。何でもないことがあっても興味がわいてくるようになったんですね。

絵本は人と人をつないでくれる

結婚してからは、転勤族の夫と全国を回りました。子どもの時には身の回りに本がなかったのですが、大人になってから絵本をみると読んでみたくなり買っていました。そうすると、転勤で場所が変わっても、近所の子どもが遊びに来てくれるんです。ただ一緒に本を読むだけでも、子どもを通じてお母さんたちともつながることができました。絵本は、人と人とをつないでくれるんですね。本は心を豊かにしたり知識を得たりするものですが、それだけでなく、人と人とのつながりを深くしてくれる大きな力があると実感しました。

ひょんなことから、絵本作家に

絵本作家への道を開いた「とうさんかあさん」

そして、ひょんなことから、自分が絵本を描くことになりました。

デビュー作の「とうさんかあさん」は、九州にいたときに石風社の編集者の方に出会ったことでできました。
弟のところに双子がいて、うちで一人預かることになったときに、広告の裏に絵を描いておはなしをしていたんですね。それを見ていた編集者が出版したいと言ったのです。「はらぺこあおむし」を訳した森比左志さんは次のように言ってくださいました。
「絵本をつくるのに一番大事なのは、大人は、子どもと向き合ったときに、対等に向き合っていることで、この本にはそれがある」と。

体から湧き上がってきた「おかあさんがおかあさんになった日」

「おかあさんがおかあさんになった日」は、自分の体の中から湧き上がるものを描きなさい、と言われて書きました。自分もお母さんだからお母さんの話をかいてみようと思ったわけです。私の子どもはそのころ中学生と高校生で、親よりも友達のほうが良くなって、「なにさ、私が産んであげたのに」なんて思っていたんです。
ところが、「ちがう、子どもがうまれたときに私がうまれたんだ」と気づいた。そこからこの本が出来ました。
産婦人科の先生から、「子どもは、自分が望まれてうまれてきたことを確認したいのだ。そして、この本にはその力がある」と言っていただきました。科学の絵本、哲学の絵本としても選ばれています。

この本には英語版があります。知人であるアーサー・ビナードさんが素晴らしい訳をしてくれました。訳すというのは、その世界を自分の中に入れて訳すんですね。アーサーさんは、実際に助産婦さんに会ったり、女優の吉永小百合さんにも会ったりして、話をきいて訳してくれました。そのときアーサーさんから聞いたことなのですが、アメリカでは「おぎゃーおぎゃー」という産声を表す言葉がない、というんです。それで調べたところ、イタリア語にも、ない。中国語にもアフリカの言葉にもないらしい。いろいろ調べてやっと、韓国にはあるということがわかりました。

それから、「おばあちゃんだから、おばあちゃんの絵本もかいてください」と言われ、「おばあちゃんがおばあちゃんになった日」を描きました。でも、孫が産まれたから、ではおもしろくない。孫がいる人も、いない人もいる。そこでこの作品では、おしゃれなおばあちゃんを描いたり、大阪のおばあちゃんを描いたり、四国のおばあちゃんを描いたり、とにかくいろんなおばあちゃんを描きました。大人はみんな子どもに責任があるということを描きたかったんです。
 
それで、ほっとしていたら今度は、「おじいちゃんの本も出しましょう」ということになり、今は、おじいちゃんの観察をしているところです(笑)。

それから、「おばあちゃんだから、おばあちゃんの絵本もかいてください」と言われ、「おばあちゃんがおばあちゃんになった日」を描きました。でも、孫が産まれたから、ではおもしろくない。孫がいる人も、いない人もいる。そこでこの作品では、おしゃれなおばあちゃんを描いたり、大阪のおばあちゃんを描いたり、四国のおばあちゃんを描いたり、とにかくいろんなおばあちゃんを描きました。大人はみんな子どもに責任があるということを描きたかったんです。
 
それで、ほっとしていたら今度は、「おじいちゃんの本も出しましょう」ということになり、今は、おじいちゃんの観察をしているところです(笑)。

会場の様子
絵本「すっすっはっはっこ・きゅ・う」みんなで深呼吸

会場の様子
小さなお子さんも「すっすっはっはっ」!


絵本「かぶきやパン」は、


歌舞伎を知らない子どもたちにも人気、とのこと

変わったことをすると、偏見がなくなったり、和んだりする

歌舞伎の話が出たので、今度は、伝統的な「とのさま」をみんなでやりましょう。
みなさんに、「とのさま」になってもらおうと思います。
 
(参加者がひげをつけたのを見て)
見事にみなさんひげが似合いますね!
私が描いた「とのさまサンタ」という絵本があるんですが、新潟のある図書館では、この本にちなんでひげをつけてカウンター対応していたそうです。おもしろいですね。
人は、変わったことをすることで人生が変わることがあります。偏見がなくなったり、和んだりするんですよ。


黒い折り紙を破った「ひげ」を顔につけます


自然と笑顔があふれます

絵本とはまた異なる、紙芝居の魅力

紙芝居は、絵が飛び出していく

紙芝居は、絵本と全然違うのです。
どこが違うかというと、まず、絵本には、いっぱい細かい絵が描かれています。ゆっくりと見て、ページを戻してまた見ることができます。読者が本に入っていくのが絵本です。一方、紙芝居は、絵が飛び出していきます。中から飛び出していく。絵本と逆ですね。紙芝居は簡潔で、説明しません。「と、優しい声でいいました。」などと言いません。

紙芝居を演じる時に使うこの黒い箱を、紙芝居の「舞台」といいます。舞台に入れることで、紙芝居は何倍も面白くなります。

扉付きのものと、扉なしのものがあります。扉の開き方は、どこから開くのか、作品によってかえるといいと思います。扉がないと、わくわく感がないので、扉なしを使うときには幕紙(まくがみ)という紙を使うときもあります。
アーサービナードさんは、この「ころころじゃっぽーん」をすごい作品だと言ってくれました。なぜかというと、普通は、お菓子とか、ケーキとかを描くと思うのに、やまいもとか、さといもとか、信じられないものを題材にしている、と。
実は、うちの母が「やまからころころ」とよく歌ってくれたので、これを作りました。

再評価されている紙芝居

紙芝居には、(1)ものがたり完結型(2)詩、わらべうた(3)ちしき(4)参加型と、大きく4つの種類があります。

歴史的には、飴などを売る街頭紙芝居があり、国策に使われた時代もあり、どんどん変化していて、今は高齢者の介護のためのものもあります。

紙芝居は最近また評価されてきて、文部科学省で、図工の時間に紙芝居をつくる、という話も出てきています。「紙芝居文化の会」という、手作り紙芝居のコンクールがあり、小学生も素晴らしい作品を応募してくれています。こどものつくった紙芝居はすごいです。敵わないです。

紙芝居で国際交流を

海外でも、紙芝居がつくられはじめました。ラオスの子どもたちのために、ラオスの紙芝居をつくりました。今いろんな国で、独特の紙芝居がうまれています。ヨーロッパ、アフリカ、東南アジアなど、いろんなところで喜ばれています。紙芝居を通じて国際交流ができるといいなと考えています。

 
 
 
長野ヒデ子(ながの ひでこ)
愛媛県生まれ。『とうさんかあさん』(葦書房/石風社)で日本の絵本賞文部大臣奨励賞、『おかあさんがおかあさんになった日』(童心社)で産経児童出版文化賞、『せとうちたいこさん デパートいきタイ』(童心社)で日本絵本賞を受賞。近刊に、絵本『かぶきやパン』(童心社)、紙芝居『いもむしころころ』(童心社)などがある。
紙芝居文化推進協議会会長。

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