地域活性化等調査特別委員会調査報告書
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更新日:2006年10月26日
平成18年5月29日
1 調査事件
(1)中小企業振興に関する対策について
(2)観光、文化振興に関する対策について
2 調査報告
大田区は、羽田空港、山王・田園調布に代表される閑静な住宅街、臨海部の高度産業集積、各地域における伝統文化など多彩な魅力を持ったまちである。中でも、日本の高度経済成長を支えてきた区内中小企業の存在は、世界的にも誇れるものである。
当委員会では、大田区がより一層魅力あふれるまちになるための区の中小企業振興と、観光振興対策について、委員相互の議論を中心に調査活動を行ってきた。
ここにこれまでの調査結果について報告する。
(1)観光振興対策
元来、観光都市でない大田区が多くの集客を目指すには、多くの課題がある。
また、区民福祉の向上という観点から、本当に観光振興が必要なのか、議論の分かれるところでもある。
当委員会は、観光振興による区外からの集客を実現することにより、賑わいの創出と商業振興、地域活性化につながることを前提として、調査研究を重ねてきた。
・大田観光協会および旅行会社との懇談会
大手旅行会社3社を招いて、区内の観光スポットと思われる数箇所を巡り、後日、観光協会も招いて、大田区における観光の可能性について、懇談を行った。
各旅行会社とも、現状の区内の観光スポットでは、区外からの集客は非常に難しく、区の観光振興を進めていく上では、新たな観光資源を築いていく必要があるとの所見で一致していた。
こうした旅行会社からの指摘に対して、観光協会としても、そうした状況は十分に認識しており、区内の新たな観光資源の構築として、羽田空港跡地の開発の素案についての説明があった。
現在、この空港跡地の範囲や面積は確定されてはいないものの、新たな観光資源としての可能性は高いことから、今後の跡地開発については注目に値すべきものである。
・大阪商工会議所の視察
平成17年12月13日、大阪ナイトカルチャー事業を実施している大阪商工会議所を視察した。本事業は、滞在型観光の振興により、新たな夜型市場の開拓や消費の拡大を図ることを目的として、平成15年1月から大阪商工会議所が開始したものである。
この事業の主たる狙いは、ツーリズム振興である。滞在型観光を振興することにより、大幅な経済効果が見込めるとしている。
演劇・コンサートの開演時間を遅らせることにより、サラリーマンやOLが平日でも文化鑑賞できる機会を増やすことや、開演前にきちんとした食事をとれるようにして外食需要を伸ばすこと、市内ホテルを割引で利用できるレイトチェックインを設定して宿泊需要を伸ばすことなど、様々な試みに取り組んでいる。
地域に住む人や通う人のライフスタイルに合わせて、商業ベースを考え直していくことが、活性化に大きく寄与するということが強く認識され、本区においても、産業・文化等トータル的な連携を図ったところでの一つのプロジェクトを考えていく上で、大変参考になった。
・大田観光協会との懇談会
当委員会の議論の中で、大田区で観光振興の中心的な役割を果たすのは、観光協会をおいて他にはないとの意見が大勢を占め、ついては、観光協会の運営状況その他をさらに調査するために、再度懇談会を開催した。
この懇談会では、行政・民間の綿密な連携の下、区が主体となって観光振興を進めていくべきであるという観光協会と、観光は民間の活動を主体として観光協会が中心となり進めていくべきであるとの区の立場で議論が行われた。
当委員会としては、双方の立場の違いがあるものの、大田区の観光振興のため、今後においても話し合いを継続していくことを強く求めたところである。
・観光振興にあたっての課題
こうした調査活動を通じて、当委員会では、大田区における観光振興対策について、下記のような課題が挙げられた。
(1)観光化にあたっての基本的な考え方
大田区は、元々の観光地ではない。区内には観光スポットと呼べる場所もいくつかあるところであるが、観光客の受け入れという面で観光に関する区民の意識は希薄であると考えられる。
例として馬込文士村を観光地として発展させていくとした場合、元々閑静な住宅地である馬込地域の住民として、多くの観光客がその地に訪れることに対してどのような意識を持つのか、という視点からも検討することが必要である。同様のことは池上や田園調布にもあてはまる。
一方で、臨海部は羽田空港や、大田市場、海浜公園等があり、これらをうまくアクセス等に配慮して面として整備することにより、多くの集客の可能性がある。
このような観点からは、区全域を一挙に観光地化させるというのではなく、臨海部とそれにつなぐ大森・蒲田からのアクセスの整備というように、ある程度の重点的な整備手法をとることも考えられる。
(2)区と観光協会との関わり
大田観光協会の主張としては、観光振興は地域活性化に直結することから、区・観光協会、そして民間が緊密に連携して推進していく必要があり、さらなる行政からの支援を望んでいるのに対して、区は、観光協会等と連携を図りながらも、民間活力を集め観光協会が主体となって進めて
いくべきであると考えており、ここに両者の見解の相違がある。
こうした状況に対し委員からは、直接行政と観光協会が連携し観光政策をつくるべきであるとの意見が出された。
一方では、観光協会の独自性を打ち出す上でも、協会の更なる努力が必要であるとの意見も出された。
(3)新たな観光資源の開発
観光協会、旅行会社からの指摘のとおり、既存の観光資源で区外からの集客を見込むのは非常に難しい。このことから、新たな観光資源を整備することが望まれている。
現在、羽田空港において第四滑走路が整備されており、2009年には定期国際便の就航が予定されている。同時に、空港の沖合展開により生じる空港跡地の活用について、今まさに検討しなければならない時期に来ている。
羽田空港の国際化により、国際的な航空旅客の乗降が増加することから、それらをターゲットにして、空港跡地に集客施設を整備することも考えられる。
また、東京都は2016年のオリンピック誘致に力を入れており、これに向けて、空港跡地にオリンピックで使用する施設等を建設することも考えられる。
観光協会の指摘のとおり、東京にはアリーナがないことから、併せてこれも整備すれば、多くの集客が見込めるものと考えられる。
(2)中小企業振興対策
景気は踊り場を脱し、賃金・雇用面でも力強い上昇傾向にあると言われているものの、中小企業の景況は一進一退の状況が続いている。当委員会では、中小企業の実態把握や振興策を模索するため、懇談会や視察を中心に調査活動を行った。
・大田区商店街連合会、東京中小企業家同友会大田支部との懇談会
区内の中小企業の実情を調査するため、大田区商店街連合会、東京中小企業家同友会大田支部との懇談会を開催した。
この懇談会では、各団体同士の連携がほとんどなされていない現状があること、区内の共通商品券が広く区民に知れ渡っていない状況などが浮き彫りになり、各団体間の交流やPRの不足が指摘された。また、商店会の会員が減少している現状に鑑み、それぞれの商店に対し商店街事業への積極的な参加を促すような条例策定の要望がなされた。
委員からは、商店街は青少年の教育や犯罪防止、地域の防災等地域コミュニティの核としての役割を果たしており、商店街の活性化なくしては地域の活性化は難しいのではないかとの意見も出された。
・新銀行東京蒲田出張所の視察
東京都において、中小企業向けに新たに開設した新銀行東京の実情を調査するため、同行の蒲田出張所の視察を実施した。
新銀行東京は、中小企業の潜在的な力を十分発揮できる環境を整え、経済再生の確かな道筋をつくるために設立されたものである。新銀行自らがコーディネーターとなり、金融・産業・行政等の力を融合させ、業種の枠を超えた連携による新たな金融サービスを提供することにより、地域経済の活性化への貢献が期待されるところである。
区内に新銀行の出張所がある利点を活かし、新しい技術の開発や新規創業などに対する融資枠を有効に活用することにより、区内の中小企業が活性化し発展していくことを願うものである。
・中小企業庁技術課の視察
平成17年度より、本区職員が中小企業庁技術課に派遣されている。このことから、当委員会としても、これを契機として、国の中小企業対策について調査するべく、中小企業庁技術課の視察を実施した。
中小企業庁では、中小企業による新事業、新分野への挑戦や、個人による創業への挑戦に対して、技術面・経営面からの支援を行っている。
この視察では、中小企業技術基盤強化推進事業としてデジタルマイスタープロジェクトの説明を受けた。これは、熟練技能者の技能を客観化し、ITを活用して再現性のある「デジタル技術」に可能な限り置き換えていこうとするもので、今後の先端技術に対する方向性を拝聴できたことは大変参考になった。
中小企業庁へ職員を派遣することが、産業のまち大田区の現状を国に提供し国の施策への反映に繋がるよう、さらには国の重要な施策や企業支援に対するノウハウを取り入れ、区独自の施策展開の礎になるよう期待するものである。
・大阪産業創造館の視察
昨年12月、本区と同様に高度産業集積地である大阪市の中小企業振興について調査するため、大阪市の大阪産業創造館の視察を実施した。
大阪産業創造館は、大阪市経済局の中小・ベンチャー企業支援拠点として2001年1月に開業した。
大阪市経済局の外郭団体である財団法人大阪市都市型産業振興センターが運営しており、経営相談をはじめ、セミナーやビジネススクール、商談会、交流会など、多種多様なサービスで経営者支援を行っている。
中でも、ビジネスマッチング支援事業では、大手企業のOBが中小企業を1件1件訪問し、情報収集を行ってデータベース化した上で、それぞれの企業の必要に応じて、販路拡大や事業提携、投資などを求めるパートナーとの出会いをセッティングするなどして、高い実績を上げている。
民間の発想で、様々な経営支援に成功しており、当区における中小企業振興を考える上で大変有意義であった。
・中小企業振興対策における課題
本区の誇るべき特色として、高度な産業・技術集積ということがあげられる。国際競争の激しい今日、本区として、こうした区内中小企業の存続・発展に向けて積極的な支援を行っていく必要がある。
商店街の活性化を図るには、まず商店や商店街自身の自助努力であり、それを側面から支援する各種団体や行政など、それぞれの立場からの協力体制の確立が重要である。
区内の共通商品券においても、区民や区内企業への積極的なPRはもちろんのこと、買い物等に際しての特典を付与するなどの創意工夫が求められる。
本区は、本年3月、商店街の活性化に向け「大田区産業のまちづくり条例」の一部を改正した。この条例改正が実効性のあるものにするための具体策の検討が求められ、行政が担うべきものについては、積極的に支援する体制づくりが急務である。
本年、世界に誇れる大田の工業技術を世界に広めることを目的とした大田ブランドの発信事業がスタートした。
これは、大田区の工業集積の強みやモノづくりに対する真摯な職人気質を継承し、未来に挑戦する企業活動を大田ブランドとして定義し、ブランドの表象を設定した上で、国内外にPRを展開していこうとするものである。
大田の産業を世界に轟かせるためにも、メディアやインターネットなどの媒体を活用した多種多様なPRが重要である。
以上、当委員会における調査経過を述べてきたが、地域活性化等調査特別委員会は、前身である中小企業緊急対策特別委員会の設置から3年の年月をかけ、区内における中小企業振興策や観光資源の模索など区内の活性化に向けた取り組みをテーマに調査・研究を重ね、提言を行ってきた。
この間、本区は産学官の連携強化や異業種交流の促進、さらには大田ブランドの創設などの工業振興に向けた施策や、商店街におけるイベント事業支援や再生支援などの商業振興に向けた施策など、地域の活性化に向けた様々な施策を展開してきた。
これらの施策により、活気に満ち溢れた大田区を取り戻しつつある今日、今まさに大田区の名が世界に知れ渡ろうとしている。2009年の羽田空港の国際化やオリンピックの招致に備え、国内外からの観光客の増加に対応するためにも、新たな観光資源の創出が急務とされている。今後においては、これらを踏まえ集客効果を高めるためにも観光振興に重点を置いた調査研究が望まれる。
最後に、観光振興の推進が区内中小企業の活性化に繋がることを切望して調査報告とする。